個室にて

Ars Cruenta

燻しすぎ

 コロナ以前から、燻製は少しずつ人気になっていた。自宅でも簡易な装置で燻製ができるグッズが販売されたりして、秘かなブームだと思っていたのだが、コロナでおうち需要やキャンプ需要が一気に増えたことに伴って、燻製は作る意味でも食べる意味でも一気に勢いのある食べ物になったような気がする。統計を調べたわけでもないのだが、スーパーでも燻製に関する製品はよく見るようになったし、ローソンなどはいぶりがっこ入りのチーズタラなども販売している。道の駅でご当地名物を燻製にしたものを販売するケースは後を絶たないし、百貨店でも、地域のいろいろな商品を扱うコーナーでいろんな燻製を出したり、スモークサーモン専門店が出店したりするなど、やはり5年前と状況は違うような気がする。

 ただこの状況についつい一つ苦言を呈したくなることがある。それは、一部の製品があんまりにも燻しすぎで素材の味も何もないような、ただいぶされたものを作ってしまっていることである。以前、東北の、ネットではそこそこ有名で高級なメーカーからかきの燻製オイル漬けを取り寄せたことがある。値段相応の味はするのかしらと楽しみにしていたのだが、ふたを開けた途端、何かちょっとまずい予感がした。思い切り鼻で吸い込めば「うっ」となりそうなほど、燻製の香りが強いのだ。案の定、食べてみるとかきの味も香りも燻製の香りにやられていて、かきの形をした燻しチップを食べているような、不思議な経験をする羽目になった。

 また先日、高知から鰹を取り寄せた時もそうだった。そこの鰹はとても有名なお店が出しているもので、藁焼きながら燻製のような香りのするということで評判のいいものだった。何度も「燻製」で下手を打っていたわけだが、普通の燻製と違って藁焼きだから大丈夫だと思っていたところもあったのだろう。着荷して香りをかいだら確かに燻製のような強い匂いだったが、その時はおいしそうだねと済ませていた。しかし実際に食べ勧めてみると、普通の藁焼きのほうが最後まで美味しく食べられる。食べれば食べるほど、燻した香りが残り、だんだん鰹のたたきを食べているのではない感覚になってしまったのだ。

 醤油の味しかしない醤油漬けだったらみんなクレームを入れるに違いないのに、どうしてこうも燻した香りしか残らない燻製は評判がいいのだろうか。不思議に思う今日この頃である。