個室にて

Ars Cruenta

味を変える

 世の中には何度でも食べたい味というものがあるのだが、とかく最近は「味変」がブームである。たった一杯のラーメンを食べるのに、「途中からお酢を入れましょう」「高菜を加えましょう」「ラー油を入れましょう」と、いろんなものを客に入れさせるお店がすごく増えたような気がする。ラーメンに限らず、途中からフルーツソースをかけて食べるクレープだとか、スイーツにまでこの波が広がっているのは興味深い。

 まあ昔から、たとえばなんにでも酢を入れないと我慢ならない人というのはいる。そういうオリジナルをぶち壊しに行くスタイルとは違って、味変は店側が客の入れるものをコントロールし、入れるものを商品に合わせて作っているという点で、計画的だと言えるのかもしれない。しかしその一方で、店はもはや「これがうちの味です」と素直に言えなくなってしまう。味変アイテムを用意したところで、それをどれくらいの塩梅で入れるかは客に一任されていることが多いからだ。店主がどういう気持ちで味変を勧めているのかは分からないが、たとえば出てきたラーメンに「俺はこれが好きだから」と最初から大量の酢を入れられてしまえば、そしてそういうお客さんが多ければ、私なら「そもそもこのラーメンは酢がはいっているべきものなんじゃないか」と考えてしまうかもしれない。十人十色とはいえ、そのなかで自分の味を提供するからこそ飲食店なのだから、味変アイテムをどうつかうかで十色を表現しているようでは店のカラーは無色に一歩近くなってしまうのではないか。

 そもそもどこからどういう風にこの味変というカルチャーは拡大していったのだろう、というのも問題になるのかもしれない。たとえば話をラーメンに固定して、こってりしたものをさっぱりした味わいにするためにお酢を入れるとか、途中から辛みを足すのに唐辛子入りの何かを足すとか、それだけが味変の根拠ならば、ラーメンで起こっていることがつけ麺で起こっていてもおかしくない。でもつけ麺屋さんでこういう味変というのはあまり見たことがない。