個室にて

Ars Cruenta

茶碗蒸しが好き

 とある旅館で、ある日の夕食、小さな茶碗蒸しが出てきた。手作りの茶碗蒸しはおいしいだろうと一口食べると、思っていた和風の茶碗蒸しではない。ブイヨンがよくきいていて、歯に硬いものがあたる―カシューナッツだ。かと思えば二口目にはクリームチーズがふわっと香る。洋風の茶碗蒸しなんて初めてだったので衝撃的で、それ以来、茶碗蒸しを家でも作るようになった。

 思えば茶碗蒸しは手間がかかるようであまり手間のかからない料理だ。卵液を作る前に出汁なりスープなりをとって冷やしておく必要はあるが、あとは好きな具材を入れて卵液をかけて蒸すだけ。蒸す時間も、一度覚えてしまえばほぼ固定。「す」が入ることもあるけれど、入ったところで味に影響があるわけでもないし、人前に出すものじゃないのだから全く問題ない。

 具材も、贅沢にしようと思えばいくらでも贅沢にすることは出来るのだが、質素に済まそうと思えばお野菜やきのこで十分美味しくできるし、ちょっとずつで良い。具だくさんの味噌汁と違って卵液は固まるので、少々具が少なかったとしてもボリューム感がある。しかも最初の話にあったように、具材は何でもいいのだ。コンソメスープで作るならばミニトマトなんかを入れてもいいし、うどんで残ったかまぼこを入れたり、食べきれない枝豆を入れたり。そのとき冷蔵庫にある物をなんでも入れたらいい。

 地域によっては茶碗蒸しの具材としてうどんを入れるらしい。私が住んでいるところの近くでも、茶碗蒸しにうどんを入れるよという人がいる。考えてみればもともとはうどんの出汁と出所が同じなのだ。合わないわけがないし、メインディッシュのようなものになるのだろう。どんぶりで食べるという人もいるらしい。こう思えば、旅に出たときや寿司屋に行ったときに出てくる一品で済ませておくのはもったいない。いろいろアレンジしながら色んな茶碗蒸しが食べたいところだ。