個室にて

Ars Cruenta

「B級品」

 先日、玉ねぎ農家さんが直売するお店で大量の玉ねぎを購入した。大きな玉がたっぷり5kgも入ってたったの950円。都会では考えられない良心価格で、こんなのでちゃんと儲けになるのかと不思議に思うくらいである。その横に「訳あり」と書かれた箱があった。聞いてみると、少し小さかったり形が悪かったりして出荷できないいわゆる「B級品」で、そのため安くなっているのだという。思わず残っている「訳あり」をすべて買い占め、さらにレタスやら大根やら追加の玉ねぎまでいただいてしまった。

 出荷できない野菜と言えば、キュウリが曲がっているとか(曲がっているほうがおいしいと聞くのだが)、茄子の色が悪いだとか、大根が少しだけ割れているとか、いろんな話を聞く。確かに「訳あり」だけあって「訳」はある。しかしよくよく考えてみると、それは「A級品」になれない理由であって、そして多くの生活者は別に普段からなんでもかんでも「A級品」にこだわっているわけでもないだろう。つまるところ味が変わらなければ、私のような普通の庶民はB級品でも十分なのではないか。農家から買い取る業者が「A級品」にこだわるのは見栄えだけの理由ではないだろう。長時間の輸送、小売りにわたるまでの長いサプライチェーンで、曲がったキュウリは折れやすくなり、割れた大根は腐りやすくなる。ただ、これらの輸送と受け渡しの過程で、都会のスーパーに並ぶ野菜は場合によっては「C級品」になってしまうのだ。

 見栄えの良い野菜を食べたい人は高いお金を払ってそうすればよい。「訳あり」のたたき売りではなく、もっと農家さんの収入になるようにB級品を市場で売ることはできないものだろうか。例えばスーパーは「おつとめ品」という名のもとに腐りかけの野菜を売っているではないか。産直が可能なら、お勤め品をもう少しだけランクアップしたカテゴリでA級品より少し安い値段で売れば、B級品はいくらでも売れるのではないだろうか。あるいは農家は「訳あり」をもう少しだけでも高い値段で売ってもよいのではないだろうか。もしそれでA級品が売れなくなるようなことになったら、結論は簡単なのだ――人はよほどのこだわりがない限り、曲がっていようが割れていようが、おいしくて栄養になれば買って食べるのだ。

 もっとも話はそう簡単ではないだろう。農家のなかには金を稼ぐために大量の野菜を育てている人ばかりではなく、地元の道の駅などに破格の値段で野菜を売る人は、儲けたいというより野菜を早く売り切ってしまいたいという気持ちもあると先日聞いた。それでも、「訳あり」がこんなに安いのは見ていてなかなか辛い気持ちになる。