個室にて

Ars Cruenta

水出しの魅力

 「出汁をとって~すればおいしいよ」と言うと、すぐに面倒くさがる人がいる。「出汁をとる」という言い回し自体が、能動的にいろいろやらなくちゃならない感じがして面倒くさく感じるのかもしれない。実際、鰹こぶ出汁を取ろうと思えば、一度昆布を温めて沸騰寸前で取り出し、少し置いて鰹節を入れてしばらくしたらストレーナーで濾して、鰹節の粉が気になる人はキッチンペーパーでもう一度濾して・・・と意外と手順は多い。

 ただそんな人にも、煮干しの出汁はオススメできるんじゃないかと思う。煮干しは水の中に放り込んで一晩おいておくだけでいいからだ。できることなら煮干しを半分に割ってなかの黒いワタをとったほうが雑味やえぐみはなくなる。枝豆をむくような感覚なので、テレビを見ながらできる。味噌汁にするなら、調理時に弱火でかけておいて、煮立つまでに具材の準備をすればよい。かつおだしと違って、煮干しは全部取り除かなくてもいいし、何ならそのまま具材のひとつにしてもよい。一晩経って柔らかくなっているので食べるのに何の支障もない。あまりスーパーで手に入らないかもしれないが、旅先などであごだしのあごや、乾燥した鯛などが売っていたりしたら、これも煮干し感覚で使うことができる。一晩水のなかに入れて(できれば弱火で)煮立たせる。これだけで非常においしい出汁が取れる。

 そういえば最近は煮干しを使ったラーメンが人気で、テレビでしばしば調理過程を見るのだが、煮干しがきれいに割られているのを見たことがない。ドバドバとワタもとらずに鍋のなかにぶち込んでいるように見えるのだが、あれでいいのだろうか・・・。

 水出しといえば、お茶もいちいちやかんで沸かすのではなく冷蔵庫で水出しがおすすめ。1.5Lくらいの適当な容器にお水を張って、好きなティーバッグを二つ放り込むだけでいい。お茶の種類によって出方は異なるが、だいたい3時間もあればしっかりと出る。麦茶、緑茶、ほうじ茶、番茶、ルイボスティー、紅茶、ジャスミン茶、なんでもこれでいけるので、その日の気分に合わせて作ればいい。手軽においしく、水出しは意外と強力な味方なのだ。