個室にて

Ars Cruenta

のんびり屋さん

 唐突な問わず語りだが、職場で私は、スピード系のキャラだと言われる。ここでいう「スピード」とは文字通り、何でもかんでもやることが速いことを指す。自分で言うのもなんだが、作業はそれなりにさっさと進めるし、エレベータより早く階の移動をしていることも多い(3階でエレベータに乗った人より早く1階に降りて作業しているので驚かれることがままある)。職場のみんなでかけっこをした記憶はないが、走るのもそこそこに速い。仕事をするという意味ではさっさといろんなことが片付いていく方が良いに決まっているので、このスピードタイプはそこそこ褒められることもある。

 ただ、スピード狂のように作業をしていると、肝心なところで変な誤解を受けることがある。なんでもスピード重視でやっているかのように思われると、いわゆる「いらち」だと思われてしまうことがあるのだ。こちらはまったくそのつもりがないのだけれども、「遅くてごめんなさい」と変に気をつかわれてしまうシーンがたまに生じる。

 だけど、実は根っこのところで、私はのんびり屋さんなのだ。仕事を早く終わらせるのは、仕事がさっさと終われば残りの時間はのんびりできるからだ。さすがに職場でお酒を飲んだりゲームをしたりすることは出来ない(許されない)けど、やるべきことをさっさと終わらせたら、残りの時間は同僚とおしゃべりをしたり、商品の説明書きを見たり、サボっているわけではないけどちょっと余裕をもって過ごすことができる。家事だって、さっさと済ませてしまえば、残りの時間をそのときしたいことをしてのんびり過ごすことができる。自堕落なもので、無理もきついこともなるべくやりたくない。だけどやらなきゃならないことがあり、考えなきゃ誰かが傷つくことがあるから、やっているだけだ。それならその時間はなるべく短い方が良いし、さっさと済ませることはそれなりに合理的なのだと思っている。のんびりしたときにでも考えてやること、やるべきこと。それは賃金労働ではなく、ある種の趣味であり、ライフワークなのだとさえ思う。

 とはいえのんびり屋さんにもいろんなタイプがいる。職場に、私とは違うタイプのふたりとんでもないのんびり屋さんがいる。ひとりは、仕事自体をのんびりやりすぎるタイプ。どれくらいのんびりやるかというと、相当の激務であるようにも見えないのに、しょっちゅう数時間単位で残業をする。まわりから「怒られるよ」と言われているのだが、どうも時間さえあればゆっくり仕事がしたい人らしい。「ゾウの時間、ネズミの時間」を読んで、「ああ、私はのんびり屋さんなのだ」と自覚したというエピソードがまたなんとものんびりしている。

 もうひとりはのんびりしすぎて意識が飛ぶタイプ。ナルコレプシーの気があるんじゃないかと時々心配になるのだが、職場でうつらうつらとして、最悪寝てしまっていたりする。過去に何度か睡眠を理由に遅刻してきたこともあるのだが、たとえ起きていたとしても、気づくと両腕を後ろに組んで、職場内をお散歩していたりする。こちらも別に嫌味を込めているわけではないのだが、「今日ものんびりだね」と言うと、「うふふ」とにっこり笑う程度にはのんびりしている。

 どちらも一癖あるのんびり屋さんだが、私はどうも嫌いになれない。何とか社会とうまく合わせながら、このままのんびり生きていってほしいなと、たまに思ったりする。