個室にて

Ars Cruenta

CMという作品

 子供のころは、好きなアニメや映画の途中で挟まるCMが大嫌いだったが、大人になるにつれ、いろいろ調べてみると面白いCMがあるというのが分かった。また、東日本大震災のとき、「ぽぽぽぽーん」でお馴染みのACのCMが流れ続けるのを見て、辟易としながら「いろんなCMが流れるのは案外いいことなのかもしれない」と思った人も多いのではないだろうか。CMも番組といっしょで、うまく作っていればそれなりに見どころのある作品も多い。つまらないCMばかり流れると鬱陶しくなるが、番組の合間に一本でも面白いものがあれば少しテンションが上がる。

 CMの良さは、基本的に情報と機知によって決まる。情報というのは、「これを買ってみたい」「これを使ってみたい」と思わせる、商品やサービスの魅力に関わる情報である。これに対し機知とは、短い時間のなかで視聴者に何かを印象付け、面白いと思わせることで間接的に商品、サービス、会社の名前を売るためのものである。情報は分かりやすく提供すればそれだけ購買欲に繋がるだろう。ただ、視聴者によって欲しいものは異なり、嘘でもつかない限り商品やサービスの情報というものは固定的だから、いろんなCMが機知を競う形でユニークな広告を打ち出すこととなる。

 ところがこの「ユニーク」がどういうものかが結構大きな問題となる。有名どころで行けば高須クリニック。おばさんが諺の一部を読み上げて女の子たちが「Yes!高須クリニック!」を連呼するだけのCMに見覚えがある人も多いだろう。どういうつもりであのCMを流し続けているのか理解に苦しむが、「高須クリニックは何をしているところなのか」についての情報もほとんど入ってこなければ、何かが面白いわけでもない絵面を15秒も見せられて、辟易とさせられる。「うちの会社はこんなにすごいのだぞ!」と自社自慢をするCMも最近は増えてきた気がする。こちらも「東急リバブル」のように雑学を交えた多少の面白さがあればいいのだが、大真面目に「うちの会社はこんなに顧客満足度が高いのです」とやられたり、意味不明なポエムといっしょに抽象的かつ薄っぺらい標語を並べられたりすると、見ていてだんだん重い気持ちになってしまう。会社のイメージアップどころか、CMで「なんだよこいつら」となってしまう会社というのは、実はあったりするんじゃないだろうか。

 日清食品のガチャガチャしたCMも決して悪くないとは思うし、サカイ引越センターのCMに出てくる女の子は非常にかわいいと思うのだが、最近見ていてお気に入りなのは「くらこん」のCMだ。

www.kurakon.jp

「くらこん」が昆布の会社であり、このCMが塩昆布のものであることを明示した後に、理由付けを踏まえて自社商品を使ったレシピを紹介するという、情報面がそろった内容となっている(ただ、塩昆布を使えばなぜ煮物が簡単になるのかの理由はこれを見てもいまいち分からない)。そこに「塩こん部長」というキャラクターのモノローグにのせた演出に、トンネルから大根が飛び出してくるという意外性で機知の面でもうまく補えているのではないだろうか。