個室にて

Ars Cruenta

人付き合いの時間

 四月になって生活が大きく変わった。変わったは変わったのだが、前以上に忙しくなったのと忙しさの質が変わっただけで、何かのために時間を取るのが難しいという点ではあまり変わらないような気がする。

 思えば学生のころからそこそこに忙しかった。生活と本代のために週4日ほどバイトに入っていたのと、研究のためにあれこれ読まないといけないのとで、あまり人付き合いのために十分な時間を確保できなかった。前々から友達がいないことを気にしていたのだが、後から振り返って考えてみればそりゃ当然で、人付き合いの時間を確保せねば人と会うことは出来ない。そして忙しいとどうしても、人付き合いの時間の確保の仕方は限られてくる。前々から入念に相手と相談して、時と場所を決めて会うのだ。そこにはフリーに誰かが入ってくる余地というものが基本的にはない。したがって人付き合いの時間のなかで新しい人間関係が開拓される余地がない。

 そんなわけで学生時代からずっと「気軽にいつでも会える相手」というものに憧れていたのも、これは別にそういう相手がいるだけで成り立つものではないということになる。気軽にいつでも会える相手に会うためには、気軽にいつでも会いに行ける自分が必要なのだ。そうはいっても貧乏暇なし、今日も頑張って働こう。