個室にて

Ars Cruenta

骨を折ること

 先日、家族がひょんなことから骨折した。しかも旅行の一日目に。本当に「え、こんなことで?!」ということがきっかけだったので、最初は軽い捻挫だろうと冷やしていたのだが、念のためにと見知らぬ土地で大きな病院に電話をかけるも整形外科は休み、地元の整形外科を教えてもらって予約を入れた。なにせ山のなかだったから、その地元の病院に行くにも1時間かかった。もし運転手が骨折していたら、もうどうしようもないことになっていただろう。

 電話をかけた整形外科はよほど人気なのか、15人くらいが待合室に犇めきあっていた。しばらく待ってやっと順番がまわってくると、先生はとてもユニークで、「旅行中に大変でしたね」と言いながら触診し、「これはいかん、骨を痛がる」とレントゲン室へ。そこで初めて、くるぶしの骨が折れていることが分かった。ほかの患者さんが落ち着いた後、松葉杖の練習をするも初めての松葉杖が上手に使えるわけもなく、ホテルに着いて車椅子を借り、やっとこさ一息つけた。

 松葉杖の練習が必要だとはいえ、旅先で練習することもないだろう。というわけで、それから旅先で車椅子探しの旅が始まった。要は次の行き先に電話をかけては車いすがあるかを尋ね、あれば確保してもらうようお願いして移動するという手続きが続いた。ふだんバリアフリーなんてそれほど考えない人間だが、大きな動物園や市場のみならず、道の駅なども案外車椅子を置いているというのが驚きだった。というのも、本当に車椅子でしか移動できない家は、自前の車椅子をもっていっているだろうから、そうどこでも貸し出し用の車いすがあるとは思っていなかったからだ。おかげさまであまり燃焼不良になることなく、多少予定は変わってもだいたい行きたいところには行けたし、それなりに楽しむことができた。唯一心残りなのは、階段でしか行くことのできない予約していた寿司屋をキャンセルせざるを得なかったくらいである。

 とはいえ家に帰っても、小さなことが一つ一つ困難となってしまった。まず大変だったのは松葉杖で車から自宅のマンション5階まで上がること。蒲団から片足で起き上がって椅子に座るのも1週間たってやっと慣れてきたらしい。風呂に入るときは、ギブスのうえからかぶせる防水カバーを教えてもらい、それをがさっとかぶせて何とかシャワーを浴びられる。一週間二週間の話ならよかったのだが、どうもギブスを外すまでに6週間は覚悟しなくてはならず、それから先も衰えた筋肉をリハビリでなんとかしなくてはならないという。2か月くらいかかるのかしら。

 鶏肉が好きで、これまで無数の数の手羽先をバリバリと骨折って食べてきたわけだが、いざ人間の身体となると、足先がちょっと折れただけでこんなに大変なことになってしまうのだ。骨折はくれぐれも気を付けたい。