個室にて

Ars Cruenta

屋台街としての百貨店

 コロナ以前は、よく百貨店の食品関係の催しに行っていた。ワンコインでワインが飲めるとか、2,000円でアテ三種と日本酒三種のマリアージュが体験できるとか、北海道の何かが手に入るとか。

 百貨店が良いものの集まる場所だというイメージはいまだに根強いのかもしれないけれど、食品に限って考えてみると、玉石混交甚だしいように思われる。この手の催しでたとえばアーサの天ぷらに500円を出すならば、沖縄料理店では同じお金でもっとたくさん食べられるところもあるだろう。催しだけではなく地下食料品店でも、量や質でほかの飲食店やスーパーでどうも劣るところがあるお店は意外と多いのではないだろうか。(ここではとりあえず和菓子・洋菓子など菓子類は除いて考えておきたい。)値段の高いものがおいしいものだとは限らないわけで、某百貨店の鮮魚コーナーにあるお寿司を奮発して買ったときには、一口食べて気持ちがげんなりとしたことだってある。

 そう考えると、百貨店は別に素晴らしいものが犇めきあっているから行きたいものでもないらしい。確かに何軒か、行ったら寄りたくなるところはあるものの、催しの場合は知らないお店が来るわけだから、どちらかというとお祭りで屋台を覗きに行くという感覚に近い。この「屋台を覗きに行く」という感覚が楽しいのではないか。百貨店のお店は当たり外れが大きい割に値段は高いし、本当に高級屋台のようなところだ。しかし屋台が一つの集合体となってお祭りのような雰囲気を作り出すからこそ、人波に押されてもあちこちを見て回りたくなり、買いたくなる。個々のお店が独立に並ぶショッピングモールのお店と違い、ショーケースという屋台ブースがたくさん並んでいるというあのお祭りっぽさこそが、百貨店に買いに行くひとつ大きな原動力になっているのではないだろうか、などと改めて思ったりした。

 そういえば、梅田にある阪急百貨店の9Fにある広場は確か「祝祭広場」だったか。