個室にて

Ars Cruenta

高級感と距離感

 最近、高級なお菓子メーカーが「え、こんなところと?!」と思うようなところとコラボする例が相次いだ。ヴィタメールがミスタードーナツとコラボし、ゴディバマクドナルドとコラボしたときには、思わず「もうヴィタメールやゴディバで買わんとこ」となってしまった。そこそこの値段がして美味しいチョコレートはいろいろあってヴィタメールやゴディバが特別傑出しているわけでもないのに、それがファストフードとコラボしてしまっては、特別感も高級感もなくなってしまう気がしたからだ。

 逆に、スーパーでも買える普通のお菓子を供するお菓子メーカーが百貨店で高級路線を打ち出す傾向も健在だ。二回ほどしか試したことがないからそれを一般化するのは良くないのかもしれないが、こちらは高級感たっぷりの割に中身が心のなかで追いついてこない。二例のうち一例だけ挙げるならグミの「コロロ」。阪急百貨店で売られているものは8粒500円、小さなアソートパックで1,000円くらいだったと思う。確かに中身はかなり美味しいのだが、どうしても口に外側の被膜が残ってしまう。どこかコロロを越えられていないような印象を受けてしまうし、越えてしまってはそれはもはやコロロではなくなってしまうのだろう。庶民的なお菓子が高級志向を狙うと、どうしてもそのお菓子らしさを貫くか高級なものを作ることを貫くかのジレンマに陥ってしまうように見える。

 食べ物に対する距離感を考えるならば、やはりミスドミスド、コロロはコロロ、ヴィタメールはヴィタメールでよく、変にコラボをしたり高級品の開発に手を染めなくてよいのではないか。それでもこうしたコラボが流行る理由は何なのだろう。たとえば前々から思っていたが、百貨店のケーキは高すぎる。ひとつ700円もすれば、三人家族だと自然と2,000円以上のお金がかかる。それに対しこうしたコラボ商品は単価が安いし、庶民的なお菓子の高級版はみんなで分けることができるという利点もあるだろう。また、同じおかき系をとってみても、百貨店でも店によっては油の回ったおかきを高い値段で売っているお店もある。そういう嫌な思いをして「名前」でこうした商品が買われているのだとすれば、それは百貨店にとって嬉しいことどころか、沽券にかかわる一大事なのではないだろうか。考えてみる価値のある問題だと思う。