個室にて

Ars Cruenta

食べるスピード

 高校生の頃、調理実習で三食丼を作ったときのこと。ささっと作って食べ始めてしばらくすると、隣にいたクラスメートが突然、「そんなに急いで食べなくても」と声をかけてきた。気づけば同じ卓を囲んでいる人はまだ半分程度しか食べ終わっていないのに自分だけ丼が空になっていた。思えば同じようなことは何度もあって、特にめん類で顕著だ。家族と比べるとうどんやそばを食べる時間は半分くらい。今日、久々につけ麺を食べにお店に入ったのだが、先にいてもう食べ始めていた客二人より早く私が店を出たくらい。

 こう書いていると、味わって食べていないように思われるかもしれない。しかし事態は逆で、自分としては丼やめん類は早く食べてこそのものだと思っている。牛丼をはじめ丼はご飯の上に何かを載せた瞬間からどんどんびちゃびちゃになっていくし、めん類はのびてしまう。早くおいしく食べるべきものだと思っているのだ。

 なんでもそんな感じで早食い状態なのかというと、そうでもない。特に居酒屋メニューのときはお酒を楽しみながらつまみを食べる具合になるので、逆にのんびり食べている。酒も進むというわけだ。民宿でふぐを食べるときなども、刺身をゆっくり味わって食べるから、次の料理が来てしまうありさまだ。味わって食べるというのは料理にちゃんと向き合って食べるということであって、食べるスピードというのは食べるものやシチュエーションによって変わるものなのではないか。

 逆に、「ダラダラ食べる」というのは悪いことなのかもしれないが、食事の目的がもっぱら人との交流にあるならば、そういう食事のありかたも間違っているとまでは言えないのかもしれない。たとえば大学の交流会でみんながちゃんとご飯を食べていないからと言って、責める人はいない。ただそういうときに食べるものは、安い居酒屋やレストランで十分なのであって、真摯に食事に向き合ってほしいお店でダラダラ食べるのがダメなのだ。

 そう考えていると、ダラダラ食べながらも時折料理に真摯に向き合うという特殊な性格を持つ食事がある――アフタヌーンティーである。先日、久々に会う友人ともう何年もお世話になっているお茶屋さんでアフタヌーンをいただいた。ふたりでポット5つのお茶を飲みながらお菓子を食べ、他にお客さんがいなかったということもあって結局がっつり3時間も長居してしまった。お腹もいっぱいになってたっぷり人とあることないことを話す時間、なんとも贅沢な話だ。