個室にて

Ars Cruenta

冷凍おうち居酒屋

 丼ものやめん類は考えないこととして、おかずを作ろうとするとき、基本的に二つのスタイルのうちどちらに合わせるかで献立が決まる。ご飯に合わせるか、お酒に合わせるかだ。もちろんお酒を飲んでご飯を食べることもないわけではないが、そういうときでも、どちらに軸足を置くかで食卓に変化が生まれる。

 ご飯を優先させるときは定食のように何かメインとなる一品があって、その周りに小鉢を幾つか出すことが多い。たとえばなすと豚の味噌炒めのようなご飯に合わせたくなる一品がどんと真ん中にスタンバイして、胡麻和えや酢の物、残り物などと組み合わせる。これに対してお酒を優先させるときは、簡単に言うと居酒屋っぽくなる。つまりメインを張る一品があるというよりは、馬刺しやするめの一夜干しやちょっとしたチーズなどが仲良く並んでいて、好きなものを取るといった感じ。この場では胡麻和えや酢の物はメインに対する「小鉢」ではなく、「アテ」のひとつになってしまう。そして我が家の場合、夜はしばしばこのようなおうち居酒屋状態となる。

 定食スタイルより居酒屋スタイルの方が、当然お金はかかる。どうしても食べたいものを順番にピックアップしていくと、お金のかかるアテを選んでしまうからだ。しかも欲望の赴くままおうち居酒屋を成立させようとすると、どうしてもいろいろなアテが集まるところに行かなくてはならない。つまり、普通のスーパーで手に入らないようなものが手に入る場所、百貨店や大型ショッピング施設に赴くわけだが、そういうところで買い物をするとどうしても高くついてしまう。

 しかし時代の進歩というのはすごいもので、おうち居酒屋に心強い味方ができている。ヤフーショッピングをはじめとしたネット通販サイトの冷凍食品である。冷凍食品と言っても、スーパーで売られているようなニチレイなどの冷凍食品ではない。するめの一夜干しにししゃもといった海産物、親鳥のたたきや炭火焼、各地の馬刺しまで、専門の業者がそれなりに良心的な価格設定で販売しているのだ。こういった食べ物を冷凍ストッカーのなかに入れておけば、わざわざ買い出しに出ずとも、数品を出して簡単におうち居酒屋が完成する。

 それでもやはりお金はかかる・・・とはいうものの、悪いことでもない。家で満足のいくおうち居酒屋ができたら、外に食べに行こうともあまり思わないからだ。コロナも影響しているのだろうけど、外食に行く機会はかなり少なくなった。外食だとどうしてもお酒で相当お金がかかってしまうので、そのお金で2,3度おうち居酒屋ができることを思えば、こちらの方が経済的なのだ。もっとも、居酒屋で周りの様子を見ながら飲む一杯も楽しいことには違いない。もう少し気軽に飲みに行ける日はいつ来るのだろうか。