個室にて

Ars Cruenta

一人で街をふらつく

 自分で言うのも変な話だが、私は誰かと一緒にふらふらしたいタイプだ。一緒に何かを見て、連想し、いろんなことをお話ししながら歩く時間がとても好きだ。見つけた花や面白いものを写真にとるだけでなくツイッターなどにアップするのも、単に情報提供をしたいわけではなく、暗に同じものを面白がったり楽しんだりしてほしいという感情があるのだと思う。

 ただコロナやいろいろ心を壊されるような事件もあって、この1年は買い出しや家族旅行でもない限りほとんど一人きりで街をふらつくようになった。忙しいこともあって職場と家の往復が続き、たまにどこか知ったところへ出かけても、同じ道ばかり通ってしまう。道を歩くうえで「あそび」がなくなった。よく、同じ町でも毎日違う筋を歩いたり違う小道を通るような人は幸福度が高いなんて話が聞かれるが、まさにあれの反対をいっていた。

 自分でもそれが悪い傾向だということは分かっていた。前に、購買欲なく梅田をさまよっても楽しくなかったことなどを書いたが、ふらりと美術館でも行くかという気持ちも持てないまま過ごしているうち、ある日ふと近くの公園にある梅の木を思い出した。それがこの間の2月だったか。心理的に苦しい局面が続いていたが運動もかねて梅を見に行くと、「みちしるべ」という品種の梅がちょうどもうすぐ咲くぞというころだった。花を見ることが改めて好きになった瞬間だったのかもしれない。

 一時は四つ角の一隅に咲く花など大して気にも留めないでいたのだが、いまはときどき、その辺にしゃがみこんで花を見ることがある。詳しいわけではないから何が何かまでは全部分からないものの、街を楽しむ原動力になってくれている。悪い気持ちの循環はなかなかおさまらないだろうが、街を歩くなかにどうか小さな楽しみを見出せるようになりますように。