個室にて

Ars Cruenta

二度寝と悪魔

 最近、身体が思うように回復せず、少しだけ二度寝をしてしまうことがある。9時に起きようと思って8時50分くらいに目覚めたら、よほど急ぎの事情がない限り、こっそりアラームを9時20分くらいにして、30分ほど余計に寝ようとしてしまうのだ。それで身体がマシになるならいいじゃないかと思うのだが、不思議なことに、この二度寝の際に見る夢というのがいつも不快で心を毒すような表象で満たされてしまうことが多い。過去に自分が犯した過ちだとか、自分が言われて傷ついたことだとか、あるいは単純に気味が悪いものが夢で跳梁跋扈する。

 そんな今日の二度寝の夢の話。小さな宿の一室は薄暗く、暖色系の間接照明がともっていた。自分はある若い女に甘言をかけられ抱きしめられていたのだが、何かの拍子に腕をのけて立ち上がる。するとその女はもういない。次に別の年取った女が現れて、「私はもう寝るね」と言ってすっとベッドのほうに向かい、消えていく。何となく自由な時間を持てた気がした自分は何かをしようとふともう片方のベッドを見ると、そこに男が寝ている。「今はまだ深夜1時なんだ、9時まではたっぷり8時間は寝れるぞ」と声をかけられると、無性に眠くなって、立っていられないほどになってしまった。夢のなかで意識が薄れるというのも変な話だが、眠るように意識が混濁するなか、自分はふと二度寝する前のことを思い出した。「8時50分にアラームをかけ替えたのだからもうすぐアラームが鳴るはずだ」と思ったとたん、目線を向けると男はつまらなさそうに笑っていた。そこではたと目が覚める。アラームの時刻は5分後に迫っていた。

 気味の悪い感じがしながら、夢の中で現れたあの三人は実は同一人物――心の奥にいて自分を苦しめようとする悪魔だったんじゃないかとふと思い至った。何か根拠があるわけでもないし、たとえば自分を抱きしめていた女が何かを象徴していると直感したわけでもない。そういえば大学時代、空き時間に誰もいない教室で寝ていると、何者かが自分の足をつかんで持ち上げる幻想に苦しめられたことがあった。いろいろなことが起こるなかで、私の心は持ち上げる幻想と同じように、いつの間にかそんな悪魔のイメージを心のなかに鎮座させてしまったのかもしれない。