個室にて

Ars Cruenta

料理を振舞う

 あなたは人の家で料理を振舞ったことがあるだろうか。自分の家で作ったものをタッパに詰めて人に渡したことがあるだろうか。あるいは人のためにお弁当を作ったことが、人を家に招いてコース料理を提供したことがあるだろうか。

 もしどれかに首肯する人は、きっと料理を振舞うことに一定の快感を覚えるか、よほど嫌なことを成り行き上させられているかのどちらかなのではないだろうか。私は割かし料理が好きで、しかも人に食べさせるのが好きかもしれない。こういうとそんなに自分の料理に自信があるのかと問う向きもある。正直自信はない。特に自分が普段やるように料理ができない環境で作るならなおさらである。いつもと違う設定でまずいものができるかもしれないのになぜやるのかと言われたら答えは単純で、その場その場でまずくてもそれを共有して許してくれると信じているからである。

 たとえばこんなことがあった。高校時代の知り合いを呼んで適当にカキのアヒージョを作ってみたところ、いかにも水っぽくて食えないものになってしまった。今思えば自分はアヒージョという料理の特質を理解していなかったのだと思う。しかしまずい料理を出された彼らはそれを食べ、翌日への転用方法を一緒に考えてくれた。

 つい昨日、離れ離れとなる山菜好きな知り合いに山菜を使った料理を幾つか送ると、食べてすぐに連絡をくれた。1,000円の美味しいお菓子を渡して同じような連絡が来ただろうか? 買おうと思えば買えないものの一つが私の調理した山菜であり、私の料理をみんなが喜んでくれたというならば、筆舌尽くしがたい幸甚ではないか。

 残念ながら料理人ではないから、これで儲けて暮らしを安定することは出来ない。しかしみんなが喜んでくれるなら、またフライパンを振るのも悪くないと思った一時であった。