個室にて

Ars Cruenta

ドキュメンタリー作家としてのバラエティ・ディレクター

 中京テレビが放映している「ヒューマングルメンタリー オモウマい店」という番組がある。ディレクターが見つけた店を紹介するという番組で、大抵はとんでもなくサービスが良すぎたり大盛だったりするお店、あるいはやたら癖のある店主が出てきて面白い。あまりちゃんと調べたわけではないのだが、同様の企画の特番がレギュラー化された形だ。

 単にどこか変な、あるいは癖のある店を集めて紹介するだけならよくある料理番組のひとつだったろうが、この番組の凄味は、ディレクターがしばしば店側に徹底的にかわいがられ、気に入られ、遂には家族のような関係になってしまう点にあり、さらにいえばその関係を築き続けて続報を放映する点にある。何度かインタビューや取材の現場に居合わせたことはあるが、もう二度と顔を見たくないようなやり方でやる人はやるし、決まった時間で話させて強引に情報だけ集めて「お疲れ様ですさようなら」という人もいる。それなのにここまで気に入られて取材を続けていくというのは、当然取材する人が取るべき態度ではあるだろうが、やはりすごいのではないか。

 たとえば「味のイサム」という店が火事に遭った際も、ツイッターなどでいち早く心配に思い連絡をしたのは、この店を見つけ出し、この店で働いて取材をしてきたディレクターだったのだという。店主はそのことにいたく感動していたが、自分の会社や店が燃えた時にすぐ連絡をくれるのがテレビで知り合ったディレクターだったら、一番でなくともそりゃ誰しも感動するのではないだろうか。まるで何度も足繫く通ってひとつのライフヒストリーを作っていくような姿勢には頭が下がる。

 ところがこの番組は人を笑わせるために、どうもスタジオにいる有名人にディレクター人をあてこすらせる。「そんなシーンいらないだろう」などと言う煌びやかな有名人には、そのシーンが持つ、日常を生きる人たちにとっての価値がいまいちわかっていないんじゃないかという気もしなくはない。ここまで言っては言い過ぎかもしれないが、生活臭とテレビの加工された映像の間で、ディレクターたちは取材を続け、うまく「正しい」落としどころを考えているのではないか。

 レギュラー放送ではないが、テレビ東京では年末に「一軒家丸ごと壊す」という番組を二年続けて放映している。いろいろな事情で店をたたみ、その店を解体してしまう様子に密着し、その背景と「最後の一日」、そして解体の現場をドキュメントする番組で、こちらもなかなか見どころがある。そして、ディレクターが頑張っていろいろ聞きだそうとする中、MCが余計なことを言うのはこちらも同じだ。出川哲郎さんの充電旅ほどディレクターが表立って何かをする番組というのは少ないだろうが、ぜひこれからも各社、良いバラエティ・ドキュメンタリーを作っていただけると嬉しい。