個室にて

Ars Cruenta

心の余裕のバロメーター

 忙しいとついついおろそかになってしまうことがあるように、気持ちに余裕がないとついついやらずにほったらかしにしてしまうことがある。人によって色々違いはあるだろうが、以前誰かに共感してもらったのは、財布の中のレシートだ。中から取り出していらなくなったものを捨てるだけの作業なのに、気が塞いでいるときはどうしてもレシートの束を取り出す気持ちがなくなってしまう。それでも日々の買い物はするし、買い物をしてレシートを受け取っていると、だんだん財布が膨れてくるというわけだ。(もちろん元々の性分でいつも財布が爆発しそうなくらい膨らんでいる人もいるだろう。)

 あと、「今ちょっとやられているな」と感じるのは、メールボックスにあるいらないメールが未読のまま溜まっているときだろうか。GmailSNS関連やコマーシャル関連のメールを自動で振り分けてくれるのだが、それでも数日のうちに未読のメールが10件、20件と溜まっていくと、心が疲れているんだなと思うのだ。訳あって一時、メールを見るのが嫌になるような出来事が続いて以来、メールボックスの未読の数字は心の疲れのレベルのように見えてくる。(これも、そもそも「未読のメールを消さないといけない」という点に共感してもらえない人もいる。)

 そんなこんなで、誰しも一つや二つは、「あ、私疲れてるな」と分かる心の余裕のバロメーターのようなものがあるらしい。ただ、バロメーターはどこまでいってもバロメーターに過ぎなくて、気の重いままバロメーターの側をいじって心がどうなるわけでもない。たとえば無理矢理気合を入れてレシートを捨てたり、未読のメールを確認していらないものを削除したりしたところで、心は余計に疲れてしまう。気温計をいじっても気温は変わらないし、むしろ気温が分からなくなってしまうのと似ている。大切なのはバロメーターが異常値をはじき出したときに、しっかりと心を休めるようにすることなのだろう。

 分かっちゃいるのだが、これがなかなか難しい。いかんせんバロメーターの存在に気づいてしまい、異常値をたたき出していることを意識してしまっても、うまく自分の心をコントロールできないことがままある。一時的に嫌なことから逃げ出すことは出来ても、嫌なことを思い出すことはなかなかやめられないし、自分のご機嫌を取り戻すための方法というのは、大抵金か時間、あるいはその両方が必要になることが多い。そうこうしていると、バロメーターの数字を見て何の対応もできないこと自体がストレスになってしまう。

 そんなとき、私はときどきバロメーターを一時だけ見えないところに置いてしまう。財布は持ち歩くけど、決済は財布のままクレジットのタッチ決済で済ませたり、タブにGmailを出さないようにしたりして、バロメーターのことを気にせず過ごして心を立て直す。今日もスマホのメール同期を解除してから仕事に向かう。これでちょっとはご機嫌に過ごせるだろうか。上手に自分のご機嫌を取れるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。