個室にて

Ars Cruenta

酒からお茶へ

 会社の健康診断の結果は惨憺たるものだった。原因は分かりきっていた。酒である。

 この一年半、何度も涙を飲む出来事が起こり、重い仕事に一人向き合う日々が続き、交友関係の大半が失われた。今は何とか人生をやり直していく過渡期だけど、相変わらず残念な出来事は続くし、慣れない仕事は慣れないし、交友関係を回復できたと言っても会える人は一握りだ。そんななか、自分の心の整理をつけて日々の仕事に向き合う上で、異常な量の飲酒がいつしか心の支えとなっていた。異常な量だということも、それが身体を壊すということも分かりきっている。ただそれがなければ、表舞台の自分の顔を保つことができそうにないほど、ストレスを抱え込んでいたと言い換えられるかもしれない。ひどい時だと、平日にもかかわらず平気でワイン二本くらいを一人で飲む暮らしだったのだ。馬鹿だと思われるかもしれないが、あの時はあれでよかったのだ。さもなくばきっとネクタイで首を吊っていただろう。

 しかし生活の再建がだいぶ進んできて、数字として生々しい値を見せつけられてくると、もうそろそろ酒に頼る暮らしも改めないとと思った。肝機能障害も怖いが、何よりアル中になってしまっては元も子もない。年の瀬にルールを決めると年末年始にさっそく例外規定が来てしまうのだが、まずは飲酒する時間についてルールを定めた。月曜と木曜を休肝日にすること、平日の飲酒は午後10時半から午前2時までにすること(夜の遅い仕事もあるのだ)、遊びに行ったりして昼や夕刻から飲酒する際は夕食後または外食後の飲酒をしないこと、などだ。どれだけアルコールが好きでも、飲むペースには限りがある。ジンを原酒であおるように飲みだす自殺行為に手を染めない限り、これでかなり飲酒量は抑えられるはずだ。

 こうルールを決めた途端、何となく自分のなかで、休肝日の自分が何に手を出すかが分かってしまい、それは現実になった。嗜好品の好きな人間は、同じ嗜好品につい手を伸ばしたくなってしまうものだ――台湾茶である。最近ではあまり飲まなくなっていた台湾茶におもむろに手を伸ばし、気づいたらお茶を作っていたのだ。お酒と違って何杯飲んでもいいし、なにせこれからの季節はあったかくてよい。今は烏龍茶と紅茶があるのだが、台湾の名店・沁園のお茶が今ではあべのハルカスで買えるから、なくなったら動物園がてら買いに行ってもいい。そのうちお茶と点心なんかを食べているかもしれない。お酒よりはお金もかからないだろう。

 中高のころから灰が真っ黒になる画像が気持ち悪くてシーシャも含め吸ったことがないのだが、自分は煙草に手を出さなくて本当に良かったと思っている。酒の味を知って煙草を数本吸っていたら、きっと今回の出来事のなかで破滅していただろう――経済的にも、身体的にも。台湾茶でのんびりできる自分を思い出しながら、これからもゆっくり失われた時を取り戻していきたいと思う。