個室にて

Ars Cruenta

「幸せならいいや」

 スタイリッシュなヤクザアクションゲーム「龍が如く」。前に本ブログでも「龍が如く7」についてコメントしたが、「龍が如く0」では一見してサイコパスで戦闘狂じみた真島吾朗の過去が描かれている。彼は現実をよく見てカタギ相手には決して無茶なことをしない、ある種の紳士として描き出されるのだが、ひょんなことから「0」のヒロインであるマキムラマコトと行動を共にし、最後はとある出来事をきっかけに別れ別れとなる。そんな彼女について歌った歌が「幸せならいいや」である。作中では出てこずのちに出てくるものなのだが、相手の幸せをただただ願う内容が今時のかっこつけただけで自分語りに偏りすぎたJPOPより凄味がある。

 曲の後半にモノローグが入るが、「大前提としてお前が幸せで笑って生きられるだけでよい」という旨のセリフが、本編を見ていると掛け値なしの言葉に映る。「俺のこと忘れないでくれ!」と言いたくても相手の幸せを願ってそう言わないというニュアンスのことも言っており、そのセリフがますますこの曲に深みを持たせている。実際に作中で真島は最後、このままではマキムラがヤクザの世界に深入りしてしまうと考え、自分が所属する組の大本である堂島組をたった一人でぶち壊しに行こうとする。結局いろいろあって堂島組を壊しはしないものの、「0」のクライマックスとなっている。

 「龍が如く極2」では、新たに真島編が追加され、マキムラマコトと真島のその後が描かれている。真島はひょんなきっかけでマコトと再会するが、過去の自分の声からマコトに自分が真島だと悟られないよう行動する。マコトが結婚相手と海外にうつると聞いて、真島は何も話もしないまま、彼女に思い出の腕時計のバンドをプレゼントするのである。自らの欲望を口にしないままマコトの幸せだけを思って行動する、それが真島の生きざまなのである。

 恋人がほしいだとかなんだとか言うことは非常に簡単だ。可愛い女を口説くのも、弱った女を手籠めにするのも、それ自体はそんなに難しいことではない。しかし真島のように、惚れた女にとって一番良い道を血を流してでも進み、自ら自身は消してしまう、そんなことができる人はいないのではないだろうか。いないからゲームになるんだと言われたらそれまでだが、血を流さなくとも、愛した人たちに良いやり方で向き合いたいと思わせるエピソードであることに間違いはない。