個室にて

Ars Cruenta

世界を襲う理由

 先日、いまさらながらペーパーマリオシリーズの「オリガミキング」のRTA動画を見ていた。オリガミをペラペラと対置したり文房具をボスにしたりと、改めて発想はさすがだなと思う点が多々あるし、現代流のコミカルな演出が散りばめられていてやはり面白いと思ったのだが、RTAという短い時間でストーリーをなぞる形で作品を見ているとストーリーのペラペラさが気になってくる。ラスボスであり諸悪の根源であるオリーはなぜ世界を折り紙に変えようとしたのか。結局それはオリガミ王国の王である自分がメモ書きされた折り紙で折られたという、ただそれだけの理由なのである。本編でオリビアが「え、そんな理由?」と言うほどのことはあり、しかもこのメモ書きはオリーへの祈りを込めた言葉だったことが後に判明する。要はちょっとした勘違いでオリーは世界を襲い、ブンボーぐんだんと呼ばれる文房具たちはオリーの命令を受けて、カラーテープのある各地でめいめい好きにやっていたという話なのである。

 ゲームではしばしば世界や組織を掌握しようとする人物が主人公の前に立ち現れ、その多くはラスボスになっていく。そうした人たちはなぜ世界や組織を襲うのか。その背景にはそれなりの理由が求められてきた。ペーパーマリオ系の最初の作品である「マリオストーリー」でも、基本線はピーチ姫を自分のものにしたいためにクッパはピーチ城ごと持ち上げるという単純な動機しかない。しかしクッパがこれを実行に移す背景には星の精霊たちが持つ力を取り上げ彼らを幽閉することで力を維持するという関係がある。だからクッパはピーチ城だけではなく、精霊たちがいる各地を征服しなくてはならない。ここにはカラーテープ以上の理由が明示されている。

 愛する人を守ってくれなかった世界への報復、哀しみを忘却した人たちへの清算の要求、辛酸をなめたうえで何があっても極道の頂点に上り詰める意志、あるいは純粋な「諸悪の根源」としての象徴。こうしたラスボスの持つ「世界を襲う理由」は物語の各所とつながり合って、かえって作品世界の重要性やかけがえなさを浮き彫りにする。主人公側が「あなたは世界を犠牲にしてでもこんなことをするの?」と問うとき、その世界は主人公たちの願いや祈りによってではなく、ラスボスの「世界を襲う理由」によって値踏みされているのである。

 もちろん世界を襲う理由が立派でも、そのやり方が生ぬるいとアンバランスな気もする。思い起こせば子供のころ、鮮烈な印象を残したのが「ロックマンエグゼ」だった。ワイリーの目的は世界征服だが、そのために初代エグゼはガス、水道、信号(交通)、電力というインフラ設備を徹底的に襲っていく。子供向け作品だから表現はコミカルなのだが、今にして考えても本気度が高い。