個室にて

Ars Cruenta

破裂する腸

 ずっと昔のことだ。子供のころ、「たけしの本当は怖い家庭の医学」という番組がかかっていた。何気なしに見ていたその回は便秘の女性を扱っているもので、その人は便秘薬を飲むも便秘が治らず、自己判断でどんどん便秘薬を飲み続けていき最後は一日に一箱飲むほどになってしまった。腸が動かないままお腹のなかに腐敗した便とガスがたまり続け、最後はくしゃみをした刹那、腸が破裂してしまう。これもまた恐ろしいことに、女性は自力で救急に電話したそうだが、細菌など悪いものが体中に回ってしまい、確か二日後、帰らぬ人となったという話である。人間の腸が破裂するというエピソードに度肝を抜かれ、しばらくの間はあくまでイメージ映像として流された腸が破裂するシーンが頭から離れなかった。ずっと昔の話だし、今グーグルで「便秘 腸破裂」と調べても出てこないのだが、確かにそんな内容だったはずだ。

 今にして思えば、あの薬はどんな便秘薬だったんだろうと思う。記憶の限りでは、イメージ映像に映っていたのは「コーラック」のような錠剤だったから、ビサコジルの入った錠剤だったのだろうか。もしそうだとすると、習慣性があるし、腸の神経に働きかけるような薬を用法守らずに大量服用した結果、もはや腸の神経が薬に応答すらしなくなってしまい、それにもかかわらずたくさん飲めばどうにかなると思って飲み続けた結果、風船のように膨らんだ腸が割れてしまったのか。市販薬の副作用やその顛末にはいろんな話があると聞くが、私にはこのエピソードがいまだに一番ゾッとする話である。

 最近、万一かかったときにでもと思い薬局に風邪薬を買いに行くと、書面にサインするよう求められた。コロナで何かを照会する必要があるためかと思えばそうではないし、どんな風邪薬でもサインが必要なわけではないが、若年者の濫用の恐れがある薬に限ってサインが必要になったのだという。偶然横のレジでコーラックを買っている人がいたが、その人はそのサインを求められなかった。アルコールのように風邪薬や咳止めを飲み続けると依存性が出るとのことだが、それならば腸が破裂するまでコーラックを飲み続ける人がまたでないように、サインが必要なのではないか。そんなことを思いながら書面にサインしたのであった。