個室にて

Ars Cruenta

酒のある町

 先日、「秘密のケンミンショー」の再放送で福岡特集をやっていたときのこと。不意に「福岡の人たちはどんなお酒を飲むんだろう」と疑問に思った。そのときは家族から焼酎ではないかという声が上がったが、結局ほかの話題に移ってしまい、調べずじまいでいた。

 しかしよくよく考えてみると、「ここの人たちはこういうお酒を飲んでいる!」というイメージが一種のレッテル貼りであることを前提としたうえで、そういうイメージが明確に出来上がっているケースのほうが少ないのではないか。たとえば沖縄特有の泡盛、芋がたくさんとれる九州南部の芋焼酎酒類支出金額トップ高知の日本酒。ほかにもいろいろありそうだが、兵庫県に住んでいるから「兵庫には酒を造るところがいっぱいあって・・・」と言って通じるものの、他県民にはぜんぜん通用しないなんてこともあった。町と酒を結び付けられるケースというのは意外と少ないのではないか。

 全国どこででも酒を造っているはずなのに、たとえばおでんのように各地の特色を比較することができないのは、「姫路おでん」のように各地で特色ある「こんな酒を造ろう」という取り決めがないことに起因するのだろう。マクロなイメージでは浮かばなくとも、地域のいろいろのお酒を飲み比べてみると、土地への愛着も酒への愛着もわいてくる。そういえば昔、小学生のころ、「イタミノサケケサノミタイ」という回文をどこかで見た覚えがあったなあ、などと思い出しながら。