個室にて

Ars Cruenta

血の色の珊瑚

 先日、面白い話を聞いたので備忘録がてら一つ認めておきたい。珊瑚といえば赤いイメージだが、こうした赤い珊瑚はだいたい二つの種類に分けられるらしい。ひとつはイタリアのほうでとれる珊瑚、もう一つは高知の沖を中心に取られる珊瑚。これらの珊瑚はそれぞれ地中海サンゴとアカサンゴという別の種類のもので、後者のほうが希少価値が高いらしい。

 高知の珊瑚の希少価値が高い理由には漁法と量の問題もあるだろう。波がほとんど立たない地中海のイタリアでは、漁師が直接珊瑚を見に行って、一本ずつ必要な枝を取ってくる。これに対し高知では海流があるため直接漁師が取りに行くことは難しい。そこで網(といっても珊瑚を根こそぎにするための大きな網ではないだろう)を落として海流の任せるままに珊瑚を取るという。どちらもそれなりに環境に配慮した漁法と言えそうだが、珊瑚の生育次第によっては確実に何かを取ることができるイタリアとは違い、高知の漁法はなかば運のようなところがあるという。

 また、珊瑚を加工する点でも両者はずいぶん異なる。全体が赤く比較的どこを切り取っても加工しやすいイタリア産の赤い珊瑚とは違い、高知でとれる珊瑚は必ず白い部分が入り乱れており、これを避けながら表面を赤く作っていくのには大きめのものを削って加工していかなくてはならない。イタリアでとれた珊瑚のほうが大きく加工したものが多いのもこのためだという。こういった加工面でも高知の珊瑚は余計にひと手間がかかるわけだ。

 どちらも同じようなものならイタリア産でもいい気がするが、それでも高知の珊瑚に特別の希少価値があるのは、その独特の鮮やかな赤さのためだという。誰が呼んだか、「血赤珊瑚」と呼ばれるその色は、光の当て方によっては朱色というよりもむしろ、流したばかりの血のように美しい色合いをしている。バイヤーの業界では「トサ」とも呼ばれるほど有名らしく、貴金属と比べるのも変な話だが、聞いたところによると1gあたりの重さでは金よりずっと高価とのこと。

 鮮血を思わせる色合いだが、幾つかのサイトを見てみると、海外では「オックスブラッド」とも呼ばれているらしい。「オックスブラッド 珊瑚」で検索をかけると血赤珊瑚の商品が引っかかる。確かに血の色ではあるのだが、オックスブラッドは実際の赤珊瑚よりもう少し暗い色のイメージがある。オックスブラッドと言うのもいろいろ幅があるのかもしれないが、とにかく美しいものなので一度は目にしてみたい逸品である。