昔、「銀魂」というアニメが放送されていたころのこと。とても有名な作品だったのだが当時の私は毎週見ていたわけではなかったのだが、なぜか印象に残っているシーンがある。といってもたまたまテレビをつけてみると流れていたのを見ただけなので細かいところまでは覚えていないのだが、主人公が「アニメの主人公はいつも同じ服を着ているが、服はどうなっているんだ」と尋ねられて、大量の同じ服を見せるというシーンだった。なるほど同じ服がたくさんあれば見かけはいつも同じ服を着ているように見える。アニメについて回る服装の問題をパワープレイで解決する様子を見せられたようで、不思議と頭に残ったのだと思う。
しかしいざ我が身を振り返って考えてみると、おそらくここ15年くらい、ほとんど赤と黒の服しか着てこなかった。もちろんアニメの主人公と違ってすべて同じ服というわけではないが、赤か黒のスラックスかパンツに赤か黒のシャツを着るという点ではずっと同じような服装をしてきた。大学に入ってつけられたあだ名が「赤黒い人」になる程度には一貫していたと思う。最近は赤のパンツをはく機会もなくなったので、下は黒のスラックス、上は赤か黒のYシャツで仕事をしていた。
なぜ赤と黒なのかというと理由はあるのだが、とにかくここまでガチガチに服装をかためてしまうと、何かと楽だったことは間違いない。特に昔の私は、どの服にどのズボンを合わせるなどと考えること自体が億劫で、赤と黒に一度決めてしまえば、上と下で4通りの組み合わせしかないのだし、どの組み合わせでも無頓着(さすがに赤×赤は気にしたかもしれないが)。箪笥の上から順番に服をとって着るような日々が続いた。アニメの登場人物の服装をいちいち代えていては作者さんが大変なように、私にとって赤と黒はある種のユニフォームになっていたのだった。
ところが一年くらい前から、少し様子が変わってきた。きっかけは二つ。一つ目は前にこのブログでも取り上げた、ヒスイカヅラのシャツ。阪急百貨店の沖縄展で一目ぼれしてしまい、一度は立ち去ったものの「もうこんな機会はないかもしれない」とクレジットを切った。いざ着てみると、服に自分が負けているような気がして最初は違和感があったが、何となく歩いていて気分がよくなり、ヒスイカヅラのシャツはそのまま、楽しい時を過ごすためのとっておきとなった。
もう一つのきっかけは、友人との会話だった。いつもお世話になっている友人と久々に会って話をした際、私がAmazonで服を買っているというと大笑いされてしまった。そのまま服の話になり、彼女の「オシャレをすることで、気分を変えることができる」という言葉ではっとした。人生の中で初めて、オシャレ自体に着飾る以上の効果があるのかと、その時になってようやく気付いたというか、言葉ではっきりと言われて「なるほど」と腑に落ちたのだ。
とはいえこの年になってオシャレに目覚めたとしても、これまでそんなこと気にも留めなかったからどうしよう、となる。友人に黄色や緑も似合うよと言われてすっかりその気になりはしたものの、なかなか気に入る服は見つからない。そんな折にふと「かりゆしウェア」のページで綺麗な鳥をモティーフにした服を見てしまい、えいやと購入してしまった。
まだ一度しか着ていないが、この服は私をどんな気分にさせてくれるのだろうか。ユニフォームは便利だから普段は赤と黒で、特別な日を中心にほどほどにオシャレになっていきたいが、未だにパンツの方に手を出す勇気もなく、アクセサリを買うくらいしか思いつかない。道のりは遠そうだ。