子供のころから今に至るまで、どうしても抜けない癖がある。めくってはがせそうな所があると、爪でいじってペリペリとめくりたくなってしまうのだ。ただめくるはめくるでも、日常生活を送っていてその辺にめくれるものがたくさんあるわけでもない。ただでさえ怪我をしやすい子供のころ、私はかさぶたが少し浮いてきたときを狙って、自分のかさぶたをはがしたくなるようになっていた。子供にありがちな話ではあるだろうが、どうも綺麗にむけたときの気持ちよさは相当なものだったらしい。大人になってかさぶたができるような怪我をすることは少なくなったが、仕事柄手荒れなどが起こると、今でも荒れてぴょんと立った皮膚の一部をめくって、はがそうとしてしまう。
普通、痛いのは嫌だから避けようとするはずなのだが、かさぶたや傷跡をめくる癖がつくと同時に失敗して出血することにも段々慣れてきてしまう。もちろん痛いのは嫌なはずなのだが、慣れてしまったのだからどこをめくって失敗するとどれくらいの血が出てどれくらい痛い思いをするかも大体想像がついてしまう。慣れとは恐ろしいもので、血が出るリスクよりもめくりたいという思いの方が勝ってしまうのだ。
そんななか、二週間ほど前にちょっと大変なことが起こった。以前、爪の上の方がひび割れてしまったことがあるのだが、その白くなった跡がどうしても気になってしまい、爪切りで削ってとってしまおうとしたら、勢い余ってずるっと爪の根元に穴をあけてしまったのだ。このときはさすがに焦った。出血もしばらく止まらずはてさて困ったと思ったのだが、しばらくして気づくと硬い爪の真ん中に、小さな赤いいくらのようなものができている。爪にできた穴から、炎症を起こした皮膚が膨れてこんにちはしていたのだ。
このとき、何となく「気持ち悪いな」より「面白いな」と思ってしまった。考えれば、爪が皮膚組織の死骸でできているという話は学校で教わったけど、爪がいくら伸びたところで爪=皮膚の死骸という実感は得られなかった。でも爪に穴があいたことで、これからこの炎症を起こした皮膚が死んで爪になっていくのを実感できるかもしれないと思ったのだ。ブログで出すのは控えるけれど、数日おきに写真を撮って記録に残しておくことにした。
二週間経って写真を見返してみると、確かに少しずつ変化が起こっている。穴があいた周りの爪もだいぶめくれて薄くなっていたのだが、その部分は徐々に固くなり、まだ押すとぷにぷにしているが、それなりに爪らしい硬さを備えるようになっている。あいた穴から覗いていた皮膚部分はどこかにぶつけるたびに出血を起こして結構困ったのだが、最終的に二週間もするとあまり出血しなくなり、炎症のふくらみもおさまって爪になる準備体操をしている。なるほど、あのときの炎症を起こした皮膚の屍が少しずつ爪を作っているのかと、少し感慨深い気持ちになった。上側の爪とこれからどう一緒の爪になっていくのか、そもそも正常な爪の状態まで戻るのかも分からないが、こうなってしまったものは仕方がないのだから、面白い体験をしたと思っておこう。