個室にて

Ars Cruenta

有害な味方

 よく映画やRPGなんかで、裏切る仲間とか、変なスイッチを押してしまって大変な状況に陥れる仲間というのが出てくる。コメディタッチならそういう仲間はハプニングキャラで物語に笑いを付け加えてくれるし、シリアスなら裏切る仲間はたいてい物語のキーパーソンとなっている。しかし現実では、こうした「有害な味方」は笑いにもシナリオ上の演出にもならない。こと組織のなかで良かれと思ってとんでもないことをする人というのは、しばしば組織そのものに泥を塗ってしまう。
 このことをよく明かしたてる例のひとつは、選挙活動なのではないかと思う。選挙活動で有害な味方というと、応援に来たお偉いさんが失言をしてかえって候補者を追い込んでしまう事例がたびたびあるけれど、そうでなくとも一般の市民が選挙活動で汚点を残すこともままあるし、その風景は案外よくなじみのものではないかと思う。
 たとえばスーパーでの出来事。ある党の熱心な支持者がレジで買い物を終えた後、そそくさとカバンから何かを取り出す。何かと思えば党の出している広報誌で、後ろに客が待っているというのにその支持者は写真を見せながら「今度こういう候補者が出る、この広報誌は読んだか、支援を頼む」などとベラベラ話すのだ。待たされている側もたまったものではないが、店員だって当然困る。後ろに人が並んでいるからと言って、やっと帰る始末だ。本人は素晴らしいことをしているつもりなのだろうが、つまるところ選挙活動を通して党への印象を悪化させているとしか思えない。
 別のある党の支援者はビラ配りに必死になりすぎて、駅前の道をふさいでビラを押し付けるように渡していた。自転車などの侵入を阻止するために駅前の道は柵がしてあって、おばさんがビラを配っているところはちょうど人々が通りやすい道だった。朝の通勤で急いでいたこともあってどいてもらったが、本人はまさか自分が往来の邪魔をしているなど分かっていないのか、往来の邪魔をしてまでビラを配りたいのかのどちらかなのだろう。朝みんながカリカリしている時間帯にきっとこの支援者の行動で党自体に悪い印象を持つ人もいたに違いない。
 こうした二つの事例はともに、訓練されていない「味方」がときに組織にとって有害になりうることを物語っている。せめて選挙活動を積極的にする人には、基本的な講習か何かを受けさせた方がいいのではないだろうか。