個室にて

Ars Cruenta

真っ白でいられない人々の物語

 つい先日、「龍が如く7 光と闇の行方」を攻略した。アクションゲームではなくRPGであるから、レベルをちゃんと上げないとなかなか進めないこともあり、ほかのシリーズと比べて2倍くらいの時間がかかった。桐生一馬が退き新しい主人公ということでいったいどんな作品になるかと思いきや、「龍が如く」シリーズらしい二つの要素をきちんと兼ね備えた作品だったと思う。

 私が思うに、「龍が如く」シリーズの一つのポイントは、ヤクザやマフィアの抗争でしかないもののなかで、まっとうに生きることのできない「黒」の側にいる人間の輝くまでの白さを見せつけることにある。この「黒」という表現は「龍が如く0」で、カタギの「白」に対し用いられる表現で、「黒の流儀」・「黒と白」と章のタイトルにも用いられている。ここで「黒」とは単にヤクザやそれに近い世界に属すグループを指すだけではなく、その暴力性やろくでもなさなど悪いイメージを含みこんでいるように見える。同作で「これ以上マキムラマコトを黒の世界に踏み込ませてはいけない」という旨のセリフを言う真島を印象的に思っている人も多いだろう。黒の組織は多くの場合、黒いやり方でしか目的を達することができない。これは警察モノでありがちな巨大不正や犯罪的行為を一種の隠蔽や正義として演出するやり方とは大きく異なる。しかしそれにもかかわらず、真島や桐生は別のヤクザを殴り、人を時に脅しつけ、「筋を通す」。そしてその筋は黒の組織の内輪のルールにとどまらず、プレイヤーという(おそらく大方は)白の側にいるはずの人間に不思議な正義感や納得を生み出す。彼らは人を傷つける。しかしその傷害の先に、そうでもしないと救えない人々を救おうという意志と、そうしなくてはならない理由がある。「相棒」のような警察推理作品が真っ白な正義感を光らせるのとは別の論理で、黒の人間は不思議なほど白く見えるのである。

 春日もまた「筋を通す」ことで黒さのなかの白さを見せるわけだが、今作ではこの白さが、従来とは異なった形で示されることとなった――元殺人者の汚名を着せられた「闇」側の元ヤクザによる選挙への立候補である。春日自身にとってこの選挙は次第に勝つためのものではなくなっていくわけだが、春日はヤクザによって黒いやり方で阻まれながらも、表向きは殴り合いや恫喝という黒のやり方ではない仕方で敵陣の久米と対峙する。そしてそれは、「光」である東京都知事・青木の行動を反射して、春日の白さを浮きだたせていく。このことがシリーズのファンにもたらした新鮮さは大きかったのではないだろうか。「光と闇の行方」というサブタイトルも、この(従来ではなかった)選挙という「白」の世界を舞台としたことから生じたのではないかと思っている。

 もう一つのポイントは、こうした黒から反射される白さは、たとえそれ自体が「黒=ヤクザ」と捉えるならばヤクザの世界に限定的なものでも、実は桐生や春日のような主人公たちに特権的なものではないということである。本作の特徴である「サブストーリー」は決して、本編の合間の「かさまし」として扱われるべきではないだろう。サブストーリーでは様々な人たちが主人公たちを困らせる。こうした人たちのなかには自らの運が悪かったというより、もはや「ろくでなし」に近い人たちがたくさん混じっている。しかし主人公たちとの交流によって、このろくでなしたちはそれぞれの仕方でもう一度現実と取っ組み合い、(主人公が間違えなければ)多くはトラブルを解決して新しく生きていく。よくいう言葉を使えば、世の中に「真っ白な」人間なんて少ない。間違えても、狂っても、それでも人は現実を見て生きていかなくてはならない。ヤクザの巨大な陰謀のなかで白さを見出す主人公でなくとも、サブストーリーの「主人公」たちは時に私たちにより近い器でこの物語を再生産しているのである。この物語が「サブ=補助的な/代理の」ストーリーと呼ばれる所以もそこにあるのではないかという気がする。

 今作ではこのサブストーリーの「様々な人たち」の一部が実際に共に同じ場所に立って「仲間」となるというのが非常に大きい。春日は仲間を大事にする。その仲間は自分と同じ運命を共有しながら、それぞれ固有の悩みを抱えている。本作は「絆」というありきたりな制度を用いながらも、主人公のねらいと仲間のねらいを有機的に連結していく。「龍が如く5」で「夢」という一言が主人公たちを結び付けた事例を、よりうまく実際のゲームに落とし込んでいったのではないか。

 こうしたストーリー上の継承を感じつつも、しかしやはり今作は今作独自の問題も散見される。たとえばセーブのできないダンジョンの先に真島と冴島が立ちふさがる第12章はそれ以前と比べると相当な難易度で、蒼天堀バトルアリーナをクリアした後じゃないと太刀打ちできないくらい辛い。その割にラストダンジョンは別に神室町地下ダンジョンにもぐらずとも途中に全回復ゾーンが複数あって防具も現地調達でき割と簡単に攻略できたり、全体的にゲームバランスがどうなっているのかがよくわからない。また、RPGの特性上、どうしてもレベルアップのための稼ぎははぐれホームレスや特定のダンジョンを周回するなど、単調なものとなってしまう。ジョブランクがそのまま強さにもつながるため、転職も億劫になる。このあたりがもう少し楽しめるようになれば、周回プレイもありかもしれない。