個室にて

Ars Cruenta

期待という裂け目

 このブログは昔使っていたものを再び運用しているもので、ファビコンなどは昔のままだった。そのため昨夜、適当にペイントで仮の絵を作ってそれを貼り付けたわけだが、何の気なしに黒い背景に赤い線を刻むとき、ふと一つの作品を思い出し懐かしい気持ちになった。

 確か小学生の頃だったと思う。家族旅行で岡山は倉敷の大原美術館を訪れた時のことである。この美術館にはモネの「睡蓮」から会田誠「愛ちゃん盆栽」までさまざまの作品が展示されているわけだが、その中でも鮮烈な印象を受けた作品があった。なんということはない、真っ赤なキャンバスにいくつかの線が走っているだけの作品なのだが、どうもそれが立体的で、塗り込めたものにナイフで裂け目を入れているような印象を受け、それが不思議と胸をドキドキとさせるのである。

 ルチオ・フォンタナ「空間概念 期待」。子供のころは強い印象を受けつつもそれ以上調べようとは思わなかったのだが、本当に塗り込めたキャンパスにナイフで裂け目を入れた作品だった。

「空間概念 期待」 ルチオ・フォンタナ作|高校教科書×美術館|機関誌・教育情報|日本文教出版

この解説にあるように、「期待」はナイフで開けられたキャンバスの裂け目と対応しているらしい。よくガラスの割れるイメージや物を打ち壊すイメージで打破や克服を表現することを思えば、ここであけられた期待はなかなか素朴かつシンプルな表現である。とにかく「前衛」といってごちゃごちゃした作品があるなか、子供ながらにこのシンプルさに惹かれたのかもしれない。