個室にて

Ars Cruenta

お土産としての調味料

もう15年以上も前になるか、けらえいこさんの『あたしンち』で子供ながらに読んでとても印象に残っている回がある。作中の母曰く、味噌や醤油といった家庭の味の基礎となるような調味料は絶対にワンランク高いものを買ってはならない。たとえ10円程度高いも…

「ガチョウ屋さん」の想いで

これがすべての始まりだった 私が初めて台湾を訪れたのは2017年の1月、シーズンオフで安いLCCのチケットを取って台北の町を訪れた。分からないことだらけというか全く知らない環境に足を踏み入れて初めての海外旅行の最初の一日目を終えようとしていた。グ…

「ヤクザの未来」

※この記事には「龍が如く8」のネタバレが含まれます。 「龍が如く7外伝」で、ヤクザの夢を語る獅子堂に桐生は、ヤクザの夢なんてものは日々を一生懸命に生きる(普通の)人たちからすればゴミのようなものだと一蹴する。外伝をプレイしているときには桐生…

「みんな違って、どうでもいい」

地元に長くいると、どうしてもついつい通ってしまうお店というのができてくる。我が家はあまり一人で外食をすることがないので、友達と会ったり会社の人と会ったりするときに、よくとある居酒屋に行く。洋風の色々なものを置いていながら、大都市にある「バ…

明日のごちそうを作るつもりで

我が家の人間は、みな揃って食い意地が張っている。趣味は食べることだから、毎日夕食に頭を悩ませ、ついつい馬鹿みたいな量をつくりがちだ。たった三人しかいないのに天ぷらはうずたかく大皿二皿くらい上げてしまうし、たこ焼きも市販のたこ焼き粉ひとふく…

心の余裕のバロメーター

忙しいとついついおろそかになってしまうことがあるように、気持ちに余裕がないとついついやらずにほったらかしにしてしまうことがある。人によって色々違いはあるだろうが、以前誰かに共感してもらったのは、財布の中のレシートだ。中から取り出していらな…

世界は形見であふれてる

仕事をするとき、いつも着けている時計がある。正確な値段は分からないが私からするとすごく高価なCITIZENの時計で、恐らく見る目のある人が時々驚いた様子で「若いのにすごく良い時計を着けていますね」などと言ってくれる。ただ、この時計は私が着けるには…

温かな冷静さ

もう半月ほど前になるのだが、我が家でちょっとした事件があった。仕事に出て行った父が、交差点で事故に巻き込まれたのだ。私はその日、遅番の仕事だったからお昼まで寝るようにしていたのだが、血相変えた母が朝っぱらから「お父さんが事故に遭った!」と…

数を数える

子供のころは学校のなかでやっていたことでも、大人になると恐ろしいほどやらなくなることというものがたくさんある。一生懸命走る機会も少なくなるし、人付き合いも人によっては大幅に減る。勉強もその一つだろうが、いわゆる「国語力」とか「科学的思考」…

決意表明

今日1月28日は私の誕生日だ。昔はこの日付を恨んだこともある。というのも、ちょうど28日が土日に重なると、この日は昔からなぜか漢検や英検といった資格試験とかぶることが非常に多かったのだ。(受けないけど)今年の1月のTOEIC試験だって、1月28日の日…

一緒に食べる代わりに

自分が食べて美味しかったものを、ときどき人にあげることがある。そんな経験は割かし多くの人が持っているんじゃないだろうか。人様に差し上げるものなんだから、よほどの王道でもない限り下手なものを渡すのは気が引ける。じゃあ何を選べばいいかというと…

「仕事はできる人」

これまでいくつかの会社や組織で仕事をしたり活動したりしてきたけれど、たいていどの業界でも「仕事はできる人」と呼ばれる人がいる。もちろん助詞の「は」が効いているわけで、「仕事はできるけどファッションセンスが絶望的な人」みたいな意味でつかわれ…

一杯の美味しいビールを飲む理由

ジョージ・オーウェルのエッセイが好きな人なら「混ざってる混ざってる!」となっちゃうタイトルをつけてみた。健康診断が終わってから起こった不思議な変化として、無性にビールが飲みたくなる。もちろんこれまでもビールを飲まないわけではなかったのだが…

The Cutting Edge of my Knife

※この文書はとある企画の一環で書かれたものですが、日記風で冗長です。 ※最初はどうしても暗い話ですが最後はちょっぴりでも明るくします。 はじまり(2023年1月1日) 2023年1月1日の昼食後、私はふらふらと、とあるJRの駅に向かっていた。ふらふらと、とは…

36周する、そして1周する――「リバー、流れないでよ」考・初

本日解禁、ヨーロッパ企画発の映画「リバー、流れないでよ」。2分間が繰り返すタイムリープモノとは知っていたものの、実際に見てみるとまさか36周もするとは思わなかったというのが正直なところだ。90分足らずの映画で2分が36周すると、ループ部分だけで7…

DVDプレイヤーが壊れて

もうかれこれ15年以上使っていたDVDプレイヤーがうんともすんとも言わなくなってしまった。もうすでに数年前からDVDを読み取らなくなっていたのだが、テレビ番組の録画は出来たので意外と重宝していた。とはいえ、思えば今年度はよく物が壊れる年で、いろん…

平日夕方のサイゼリヤ

たまに夕方から飲みたくなるとき、ふらりと近くの駅前にあるサイゼリヤを訪れる。デカンタに前菜数品を頼んでも1,500円くらいで済むのだから、居酒屋でせんべろセットを頼んでプラス一品頼むくらいの値段だ。でも分量を考えればほとんどのせんべろセットより…

一人で飲む

親が年老いていくと、家族もいずれいなくなる。友達がたくさんいるわけではないし、貴重な友達もいろいろな原因で滅多に会えなくなるかもしれない。そうなってくると、一人で楽しく生きられるようにならないと、などと暗いことをしょっちゅう考えるようにな…

ピリ辛ナイズド味噌汁

職場でいつも休憩中にカップ麺やおにぎりを食べていたのだが、健康とお金のことを考えてここ最近はお昼に食べた味噌汁とご飯の残りを持っていくようにしている。ただそのまま味噌汁を持って行ってしまうと、どうしてもお昼ご飯を繰り返し二度食べているよう…

湿布がはがれる問題

わけあって、先日、整骨院に行くことになった。昨年から膝の調子がおかしく、静かな所で歩いているとポキポキと音が鳴るようになった。それからときどき痛みが出るようになったので、ひょっとして骨や軟骨に異常でもあるのではないかと思ったからだ。そうこ…

仕事道具

小売りで働いていると、印鑑付きのペンとカッターナイフは相棒のようなものだと言えるだろう。ペンと印鑑は別々の人も少なくないが、何かを書くこととハンコはしばしばセットになっているので(例えば領収証のあて名書きとハンコ)一体になっているシャチハ…

歩く

箱根駅伝が今年も賑やかに行われているが、ああやって公道を貸し切ってお祭り騒ぎをせずとも、馬鹿みたいな距離を走ったり歩いたりするということはそれ自体がお祭りのようなものなのだと思う。いやむしろ現代の場合、馬鹿みたいな距離を走ったり歩いたりす…

グラス恐怖症

近代では、身分の高い人たちの間でしばしば「ガラス妄想」と呼ばれる奇妙な狂気がみられ、セルバンテスの「ガラスの学士」から哲学者たちの書物まで、様々な形で取り上げられる。要は自分がガラスや割れやすいもの(たとえばランプや尿瓶)そのものだと思い…

物を売る人

ただでさえ忙しい年の瀬にとあるところに置いていた冷蔵庫が壊れてしまった。前にも経験があるのだが、突然冷蔵庫が壊れるのは本当に困る。冷蔵庫の中に入っているものを足していけば、もともとの冷蔵庫の値段に匹敵するんじゃないかと言うくらい、いろんな…

酒からお茶へ

会社の健康診断の結果は惨憺たるものだった。原因は分かりきっていた。酒である。 この一年半、何度も涙を飲む出来事が起こり、重い仕事に一人向き合う日々が続き、交友関係の大半が失われた。今は何とか人生をやり直していく過渡期だけど、相変わらず残念な…

酒と傷

コロナの影響やら個人的な事情やらで、長らく友達と会っていろいろお話する機会というのがなかったのだが、オミクロン以降、少しずつそういう機会を確保するようになった。新しい友達もできて、あれこれお話する機会が増えたのだが、なんとなく、しばらくお…

舞台に立つ

前に「バックステージ」というタイトルで記事を書いたことがあった。そのときは「JUDGE EYES」の章タイトルを意識してこのタイトルを採用したのだが、思えば四月に新しい仕事を始めて以来、なんとなく「演じる」とか「舞台」といった、演劇にまつわる言葉遣…

気配

人に話しかけると、ときどきびっくりされることがある。こちらからすれば歩いて近づいて普通に話しかけただけのつもりなのだが、「うわっ!」とか言われてしまう。相手が集中しているときとかならいいのだが、いろんな人にこういう反応をされるとやはり不思…

Lost Judgmentと二つの正義

※ネタバレしかありません Lost Judgmentの本編を終わらせて数週間は経つだろうか。いじめ加害者に対する十数年ぶりの復讐、その裏で、かつていじめに加担した生徒たちを使って悪質ないじめ加害者たちを何人も殺してきた元国語教師、そして「カタギ」の心優し…

自分の痛みを嘆くには

昔、こんなことがあった。とあるところで抗議活動をしている人たちがいて、そこにはそこそこみんなから愛されている一本の木があった。彼らは自分たちが酷い仕打ちを受けているのだとビラを配り、その内容について滔々とマイクで演説をしていた。たまたま通…